朝から「お疲れさま!」はないだろう

 機能美っていうのは多分この世で一番美しいと思う。
 ブランクーシ(神の領域に位置づけられた彫刻家)とメイソンビル(マウイの伝説のシェーパー)の削り方の違いを語れる人はなかなかいないと思うし、世の中結構狭い領域中で満足しているフシがある。グローバルという言葉にだまされつつ、それを良い方に考えないとならないような風潮もどうかと思う。うまいものはどこに行ってもうまいし、まずいものは名物でもまずい。昨年秋から(?)忙しくしていて、やっとの冬休みに入った3時間後にインフルエンザになり、正月を神妙に過ごすことになってしまい年明け5日には、遠慮なく図面が舞い込み今日に至っている。そんな中、ただ一つ、ほっとしたのは、この写真かも知れない。
横浜の天井の凹みに設置したプロジェクター
 横浜で開催中の束芋展の最後に登場する「BLOW」というインスタレーションのプロジェクターだ。4台使ってランページ状のスクリーンに投影して、その底を鑑賞者が歩く時にその人にも映像が写り込むが、その影で映像が途切れないという配置。写真はまだ調整前に撮ったスナップだが良い顔をしていると思う。天井に作られた間接照明の凹みを最大限に活用させていただいた。丹下健三さんにもお喜びいただけたかどうかは分らないが、建物との格闘を芸術への触発のひとつと考えられて作られた建築なのかも知れない。と思う。登攀が無理に見える氷壁に挑むクライマーと似ている。
 さて、最近各地の美術館で働くとまだ午前中なのに挨拶は知らない人からも「おつかれさまです。」と来る。これは最近の会社などでも同じで、まだ明らかに疲れていない時間帯から「お疲れさま」はないだろうと会釈をしながらも密かに思っている。少なくとも私が会社員をしていた80年代にはそんな会話というか、声のかけ方は無かった。仕事が終わって初めて「お疲れさま」と言いたいし、言ってもらいたいものだ。いつの間にか、「いたわり」「癒し」というチープな広告的イメージが先行した結果、とりあえず「お疲れさまです」と言っとけば、差し障りないだろうという安易なマイナス思考だと思う。見ず知らずの人からでもHow are you doing?と声をかけられた方が随分積極的になれるのは間違いない。「お疲れさま」とナメ合うか、「どうしてんね」と高め合う違いは今後大きく文化を左右してしまうのではないかな。
 12月に横浜美術館の束芋展が立ち上がり、原美術館のヤン様、1月は森村新作の録音撮影、束芋の展覧会で東海岸縦走で、来月帰れば知らない間に決められていた試写会、そして3月はいよいよ写真美術館から森村展の巡回が始まる。美に至る病から15年。もう病のまっただ中を快走するランナーは今年59歳になる。最早アーティストとしての機能美の領域に入りつつある様に思えるこの頃だ。

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この横浜美術館での束芋の展覧会の様子等はimomushi : tabaimo -2010-に収録されています。BLOWの設置風景などのメイキングなども、盛りたくさんです。

束芋:tabaimo imomushi -2010-芋蟲 from Ufer! Art Documentary on Vimeo.
束芋:tabaimo imomushi -2010-
日本語/English Subtitles

imo-laをリリースした2007年の秋、束芋はロンドンの北の街、ヨークでシャネルのモバイルアートに出品するat the bottomのプロジェクションテストを行なっていた。前年から構想していた作品の形がようやく見え出した。 今回のストーリーはここから始まる。2007年の年末に横浜美術館でGoth展に参加、2008年はニューヨークのジェームス・コーハンでの個展、ハラ・ミュージアム・アークの真夜中の海の新しい展示、そしてモバイルアートが香港をスタートとして東京、ニューヨークを巡回。秋にはデンマークのルイジアナ美術館の「マンガ」というグループ展に参加、ギャラリー小柳の個展を経て、翌2009年はストックホルム近代美術館で個展。そして12月には横浜美術館で始った「断面の世代」へと続いて行く。また2008年10月からシンガポールの版画工房STPIに3回の滞在制作を経て完成した作品を2010年にら発表、2010年は、フィアデルフィア美術館のグループ展、ニューヨークの601 Artspaceでの個展、ロンドンのパラソルユニットの個展を経て国立国際美術館の「断面の世代」。今回のドキュメンタリーではこのロンドン、パラソルユニットあたりまでを束芋の回想によるロードムービーとしてまとめた。

出演・束芋  監督・岸本 康
本編映像 47分

Tabaimo (b.1975) converts her hand-drawn images into animation on a computer and incorporates them into installations using multi-projection and other means of expression. In 2009, 10 years after her debut, her major solo exhibition : “DANMEN” was shown at Yokohama Museum of Art and at The National Museum of Art, Osaka (2010). The film documents the three years prior to the exhibition and includes interviews in which she reflects on each project.
Featuring Chanel’s “MOBILE ART” , “Manga!” at Louisiana Museum of Contemporary Art, her solo exhibition at Moderna Museet and her residency at the Singapore Tyler Print Institute in Singapore, the film contains 11 works of the artist as well as their production process and shows how her large installation comes into being.


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